■婉曲表現(ジョージ・カーリン)

引き続きジョージ・カーリン。婉曲表現について。ライブでの映像はこちらで。 
俺は本当のことを隠す言葉が嫌いだ。現実を隠す言葉が嫌いだ。婉曲な言い方も言葉も嫌いだ。アメリカ英語ってのは婉曲表現でいっぱいなんだ。アメリカ人の現実は問題だらけだからな。本当のことに向き合えないから、ソフトな表現を発明して自分自身を守ってるのさ。そしてその傾向は世代ごとにどんどん悪くなる。幾つかの理由があるんだが、ひたすら悪くなる一方だ。
 
一例を挙げよう。
戦闘での症状の話。みんな知ってると思うけど。兵隊の神経がストレスで参っちまってなにも感じなくなる。神経がプッツンするかプッツンしそうになる状態だ。第一次世界大戦ではこの状態を「シェル・ショック(shell shock)」と呼んだ。簡潔で、正直で、直接的な言葉だ。2音節。シェル・ショック 。大砲の音が聞こえてきそうだ。これが70年前の話だ。
1世代が過ぎた。第2次世界大戦では同じような症状を「戦闘疲労(battle fatigue)」4音節になったな。ちょっと長くなったけど、言い難いとまではいえないな。「疲労」はショックより良い言葉だ。シェル・ショック、戦闘疲労。
それから1950年に朝鮮で戦争をした。マディソン大通りは大盛り上がりだった。そして、全く同じ症状は「作戦機能消耗(Operational Exhaustion)」と呼ばれるようになった。増えた、8音節に増えたよ!そして言葉から人間らしさは全くなくなっちまった。無味乾燥だよ。作戦機能消耗、クルマの故障みたいな響きだよな。
それから、もちろんベトナム戦争。たった16,7年前に終わった戦争だ。あの戦争を取り巻いていた嘘とペテンを思えば、全く同じ症状が「心的外傷後ストレス障害(Post-traumatic stress disorder)」なんて呼ばれても驚くことはねえな。同じく8音節だが、ハイフンがついてる。そして苦痛は専門用語に完全に埋もれちまった。心的外傷後ストレス障害。賭けてもいい、俺たちがこれをシェル・ショックと呼んでいたら、ベトナム帰還兵の何人かは当時奴らが必要としていたみんなの関心を引きつけてたはずだ。賭けてもいいぜ。だがそんなことは起きなかった。一つの理由は俺たちがソフトな表現を使ったからだ。ソフトな表現は命を命抜きに語るからだ。
 
時の流れと共に事態は悪化し続けている。別の例を挙げよう。
便所紙はいつの間にか「お手洗い用ティッシュ」になってた。俺の知らないところでだ。誰も俺に同意を求めなかった。ただ変わっちまっただけだ。便所紙は「お手洗い用ティッシュ」になった。スニーカーは「ランニングシューズ」になった。入れ歯は「歯科器具」になった。薬は「メディケーション」になった。番号案内は「電話帳検索補助*1」になった。ゴミ捨て場は埋立地になった。「クルマをぶつけた」は「自動車事故」になった。「所によって曇り」は「所によって晴れ」になった。モーテルは「モーターロッジ」になった。トレーラーハウスは「可動式住宅」になった。中古車は「以前所有されていた交通手段」になった。ルームサービスは「ゲストルームダイニング」になった。便秘は「不定期不規則便通」になった。
 
俺がガキの頃は、病気になったら病院に行って医者に見てもらえと言われた。いまじゃ健康維持機構とか健康センターに行って医療介護専門職員に診察してもらえと言われる。
貧乏人はスラムに住んでたもんだ。今じゃ経済的に恵まれない人々が都心の非標準的家屋に居住している。そして奴らは金がない!金がないんだ!ネガティブ・キャッシュ・フロー・ポジションじゃねえよ!金がねえんだよ!大勢クビになったせいだ。わかるよな、クビだよ。経営が人的資源分野における余剰人員の削減を求めたんだよ。沢山の人が存続可能な労働力の一員じゃなくなったんだ。
 
独り善がりで業突張りのデブ白人どもが言葉でてめえらの罪を隠してんのさ。簡単なもんさ。CIAはもう人を殺さずに、無力化したり、領域を無人化する。政府は嘘をつかずに、情報工作に従事する。ペンタゴンはサンシャイン・ユニット*2だかなんだかの放射線を計測してる。イスラエルの人殺しどもはコマンドーだ。アラブのコマンドーはテロリストだ。コントラの人殺しはフリーダムファイターズ*3だ。あー、もしクライムファイターズが犯罪と、ファイアファイターズが火事と戦うんだとしたらよ、フリーダムファイターズは何と戦うんだろうな?連中はこんなことには触れもしないよな。だろ?
 
中には本当に馬鹿なやつもある。知ってるだろ。航空会社が「プリボード*4」って言うだろ。なんだそりゃ?どういう意味?乗る前に乗んのか?「特別なお手伝いが必要なお客様にプリボードして頂きます」カタワだってば!簡単で正直で直接的な言葉だ。カタワが恥ずかしいことだなんて辞書には書いてないぞ。実際英語の聖書にだって使われてる言葉だ。「イエスはカタワたちを癒された」。「特別なお手伝いが必要な必要なお客様」なんて言ってねえだろ。
 
でもこの国にはもうカタワはいない。「身体的に努力を要される人」がいる。グロテスクな表現でお腹いっぱいか? 「異なった能力を持った人」というのはどうだい。俺は聞いたことがある。異なった能力を持った人!もう「ハンディキャップのある人」とさえ呼べない。「ハンディキャップのある人じゃない。ハンディキャップを負える人だ」ってな。この哀れな連中は名前を変えれば状態が変わると信じこまされてるのさ。こんな風にな、「よう従兄弟(ブーッ、卑猥な動き)」そんなことは起きてない、起きてないよ!
 
この国に聾はいない。「聴覚障害者」がいる。盲はいない。「部分的な視覚を持つ人」や「視覚障害者」がいる。バカもいない。「学習障害がある人」になった。もしくは「ちょっとだけ変わった人」だ。子供のことを「この子はちょっとだけ変わった人なんです」って言ってみるかね?「わーかみさまありがとー」
 
実際に心理学者たちは不細工な連中を「重度の外見不足」と言い始めた。いつかレイプ被害者を「望まない精液の受領者」って呼び始めるんじゃねえかな。
 
それからこの国にはもう年寄りもいない。年寄りはいなくなった。俺たちは年寄りを追っ払って「高齢市民」をお連れした。典型的な20世紀アメリカ的表現だと思わないか?血の気も活気もありゃしねえ。なんの躍動もねえ。「高齢市民」ねぇ…しかし俺はこういった言葉を受け入れた。折り合いをつけてきた。定着するんだろうなというのもわかるよ。無くしたりはできない。だが俺様こそは抵抗する男、抵抗し続ける男だ。たとえ人が爺さんを見て「ごらん、あの人は90歳の若さだよ」いうようになってもな。
 
考えてみてくれ、これは年を取ることへの恐れを示してるよな。怖くて誰かを「年をとった」って言葉で表現することさえできなくなってるんだ。反対語まで使わなきゃいけないくらいにな。そして年をとることを恐れるのは不思議なことじゃない。皆そうだよな?皆そうなんだ。誰も年をとりたくない。誰も死にたくない。でもそうなるんだよ。それで俺たちは自分に嘘をつく。俺は四十になった頃に自分に嘘をつき始めた。鏡を見ながらこう言うのさ「うーん…俺は年をとりつつあるな」年をとりつつあるほうが年をとるよりマシな気がするじゃないか。もうちょっと時間がかかりそうな響きだ。俺は年をとりつつある。それでいいのさ。この国では俺たちが死を恐れるあまり、死ななくて済むようになったからな。俺は消えるんだ。雑誌の定期購読みたく有効期限が切れるのもいいな。もし病院なら「終末のエピソード」って言うだろう。保険会社は「負の治療結果」って言うだろうな。そしてもし医療ミスのせいだったら「治療上の不運な出来事」と言うんだろうよ。言っとくが俺はこういう言葉には吐き気がする。いや吐き気はしないな…無意識的私有タンパク質の漏出を引き起こすんだ。
 

連続殺人犯へのヒント(ジョージ・カーリン)

 

コメディアンのジョージ・カーリン(1937~2008)の小ネタを見つけたので、なんとなくメモしたものの和訳。

 

連続殺人犯へのヒント(ジョージ・カーリン)

俺は連続殺人犯のニュースが好きなもんで、いつも奴らが捕まんなきゃいいと思ってる。だから俺は連中を自由にさせておくための提案をリストにまとめたんだ。俺に最高の楽しみを与えてもらうためにな。

殺人犯たちへ:もしあんたが変態の注目とか世間の耳目なんかを求めてるんなら、俺は力になってやれない。でももしあんたがただ沢山の人間を一人一人殺していきたいって言うんなら、俺はあんたの味方だ。これから言うことをやれば、警察があんたを捕まえるまでの時間を最大限先延ばしにできる。

  • 同じタイプの人間ばっかり狙わないようにしろ。いろんな奴を殺すようにしろ。ノッポ、チビ、貧乏人、金持ち、男、女、若い奴、年寄り。でも殺すのに特定の法則性をもたせるのはやめとけ。年寄りを二人殺したら、次は若い女、その次は10代のガキをやれ。金髪、黒髪、長髪、短髪、まんべんなく殺せ。あと商売女のことで思い悩むのはやめろ。
  • 獲物を襲う場所と時間帯を変化させろ。
  • 殺人事件の多い人口密集地帯で殺れ。
  • もし可能なら、国中をまわって毎回違う州でやるようにしろ。同じ町で殺すのは1年に1人にしとけ。それと直線的に移動しないこと。不確実さこそあんたの味方だ。
  • 毎回違うやり方で殺るようにしろ。イカれた殺し方をしたら、次はフツーに殺す。レイプする・しない、儀式っぽくする・しない、とかな。手口を絞りこむのはだめだ。パターンはあんたの敵だ。
  • 死体は最低でも100マイル、できるだけ殺人現場から遠いとこに捨てろ。処分方法もこいつを埋めたらあいつを燃やす、そいつはバラして、もう一人はアルカリや酸に浸す、みたいに。殺しから死体処理まで、誰かに見られたらそいつを必ず殺してバラして面倒を避けるんだ。それから死体は別々にしとけよ。
  • 車で現場に行く時とか死体を捨てに行く時、法律を破ったり事故を起こしたりしないようにしろ。使うのは現金だけだ。モーテルも使うな。中で寝れるような最新型のバンタイプにして、警察がパトロールしそうなとこには停めないようにしろ。食料は沢山用意して車内で食え。もし可能なら、車は毎回変えろ。
  • 警察に挑戦状送ってばかにするような真似は一切するな。馬鹿げてる。
  • 新聞の切り抜きなんか集めるな。新聞読むのもやめとけ。
  • 被害者から戦利品を集めるな。
  • 『CSI』と『ロウ&オーダー』を見て勉強しろ。ミスを避けるのに役立つ情報が得られる。

賢く、元気にな。期待してるぜ。